堅牢なGigE Visionカメラシステムの設計
高性能システムの必須コンポーネントと主な考慮事項
「設計の優れたGigEカメラシステムは、いかなる画像フレームも取りこぼしてはいけません。」 - Manny Romero、シニアプロダクトマネージャー、Teledyne Vision Solutions
はじめに
GigE Vision規格に基づくギガビットイーサネット(GigE)カメラは、高速で柔軟性が高く、コスト効率の良いイメージングソリューションを提供することで、産業用イメージングに革命的な変化をもたらしてきました。これらのカメラは複数の魅力的な利点を提供します。
- 高速: GigE Visionカメラは、画像取得とデータ転送の高速化を通じて進歩し続けており、1GigEから10GigE、25GigE、さらにその先へと進化を遂げています。このような進歩は、高速なリアルタイム処理が必要なアプリケーションには不可欠です。
- 長いケーブル長: より短いケーブル長で制限される他のビジョン規格と異なり、GigE Visionは、標準的なイーサネット用銅ケーブルを使用した場合は最長100メートル、ネットワークスイッチや光ファイバーを使用した場合は数キロメートルの距離に対応しています。このような特長は、カメラを処理装置から離れた場所に設置したり、広いエリア全体に配置したりする必要があるアプリケーションにとって有益です。
- 汎用性と拡張性: 標準的なネットワーク機器を使用することで、統合や拡張を簡単に行うことができます。最小限の追加コストや複雑さでシステムを拡張できるため、GigE Visionは小規模運用と大規模運用の両方で理想的な選択肢となっています。
- 堅牢なデータ伝送: GigE Visionには堅牢なデータ伝送のメカニズムが組み込まれており、要求の厳しい産業環境でも高品質の画像を信頼性高く送信することができます。このような堅牢性は、データの整合性や信頼性が最優先されるアプリケーションで非常に重要です。
システムの堅牢性の確保
あらゆる信頼性の高いGigE Visionカメラシステムの基礎となるのが堅牢性です。つまり、システムがエラーなく一貫して動作できるということです。これは、ささいな擾乱が重大な結果を招く可能性がある産業や科学の現場で特に重要となります。
堅牢性を実現するには、慎重な計画と継続的な検証を通じてパケット損失を防止する必要があります。パケット損失はデータの整合性やシステム性能を低下させる可能性があります。
当初から堅牢性を優先事項に据えることで、円滑な動作を実現し、高品質のイメージングを維持することができます。
堅牢なGigE Visionカメラシステムを維持するには、以下の重要なアプローチを実施することが不可欠です。
- 継続的なモニタリング: システムの性能を定期的に観測し、パケット損失や再送などの潜在的問題を検出および対処することが防止策となります。
- T2IRの活用: TeledyneのTrigger-to-Image Reliability(T2IR)フレームワークは、システムの問題を事前対応的に診断し、解決します。T2IRは、ネットワーク診断、帯域幅管理、高度なエラー処理に不可欠なツールを提供し、性能の最適化と障害の防止に役立ちます。
- データの整合性の維持: データがシステム全体を伝送される間に、正確性と信頼性が維持されるようにします。このような保護的なアプローチは、システムの堅牢性の基礎となるイメージングデータの品質と一貫性を維持する上で非常に重要です。
パケット損失は、フレーム当たりのパケット再送率が1~2%と低くても、システムの堅牢性の重要な指標となります。検出された場合は、システムの構成やネットワークに内在する問題の兆候であるため、直ちに注意を向けて性能やデータ品質のさらなる低下を防ぐことが求められます。TeledyneのT2IRフレームワークは、これらの問題を診断および解決できるように特別に設計されており、システムの信頼性を迅速に回復し、維持することができます。
トポロジーの概要
GigE Visionカメラシステムはさまざまなトポロジーで構成することができ、それぞれが異なるアプリケーション要件に適しています。
- ホストに直接接続された単一カメラシステム: 1台のカメラをホストアダプタカードに直接接続する、最もシンプルなトポロジーです。障害点を少なくしつつ、レイテンシを最小限に抑えて高い信頼性を確保する必要があるアプリケーションに最適です。
- ネットワークスイッチを介して接続された単一カメラシステム: 1台のカメラをネットワークスイッチを介してホストコンピュータに接続します。このトポロジーは、複数台のPCによる並列処理が必要なシステムや、マルチキャストによるシステムのバックアップに有効であり、効率と冗長性の両方を提供します。
- アダプタに直接接続された複数カメラシステム: 複数枚のネットワークインターフェイスカード(NIC)を使用して、複数台のカメラを単一のホストに直接接続します。このセットアップは、複数の視点からの同期されたデータ取得に適しており、高精度で連携の取れたイメージングを実現します。
- ネットワークスイッチを介して接続された複数カメラシステム: より複雑なセットアップでは、複数台のカメラを1つまたは複数のネットワークスイッチを介してホストコンピュータに接続します。このトポロジーは、通常、拡張性や柔軟性が不可欠である場合に使用され、多くのカメラを堅牢なネットワークインフラストラクチャの中に統合することができます。さらに、このトポロジーは、アプリケーションでIEEE 1588(PTP)が要求される場合にも最適です。
各トポロジーの重要なコンポーネント
各トポロジーにおいて、システムの堅牢性を実現および維持するためには特定のコンポーネントが重要となります。以下の表は、これらのコンポーネントの重要性の概要を示し、最適化の取り組みで重視すべき要素に関するクイックリファレンスを提供するものです。
凡例:
★☆☆(星1つ - 重要度低): 基本的な動作のためのオプションです。性能の向上に役立ちますが、必須ではありません。
★★☆(星2つ - 重要度中): 優れた性能や信頼性を実現する上で重要です。ほとんどのケースで推奨されます。
★★★(星3つ - 重要度高): 最適な動作のために非常に重要です。重大な問題や故障を回避するために必要となります。
N/A: その特定のトポロジーには該当しないか、必要ありません。
コンポーネント/トポロジー |
単一カメラ(直接) |
単一カメラ(スイッチ) |
複数カメラ(直接) |
複数カメラ(スイッチ) |
高度なカメラ機能 |
★☆☆ |
★★☆ |
★★☆ |
★★★ |
ネットワークインターフェイスカード(NIC) |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
高品質のネットワークスイッチ |
N/A |
★★☆ |
N/A |
★★★ |
高品質のイーサネットケーブル |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
帯域幅管理 |
★☆☆ |
★☆☆ |
★★☆ |
★★★ |
高度なネットワーク構成 |
★☆☆ |
★★☆ |
★★☆ |
★★★ |
診断およびモニタリングツール |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
★★☆ |
ソフトウェア最適化 |
★☆☆ |
★☆☆ |
★★☆ |
★★★ |
今後の展開: 最適化の詳細解説
各トポロジーには、システムの堅牢性を確保する上でそれぞれ固有の最適化ニーズがあります。高度なネットワークのセットアップや高品質のコンポーネントが必要な構成がある一方で、特定の課題に対処するために的を絞ったソフトウェア最適化が必要な構成もあります。
次回の記事では、これらの最適化戦略をより深く掘り下げ、高度なカメラ機能、高品質のネットワークスイッチ、複雑なネットワーク構成、ハードウェアとソフトウェア両面での最適化について取り上げます。例えば、典型的なすぐに使用可能なシステムでは、PCで動作する付属のソフトウェアリソースが十分に最適化されていないことが多く、処理間の競合を引き起こします。一般的に発生する問題として、ウイルス対策プログラムなどのプリインストールされているソフトウェアが、特にアップデート中やスキャン中に大量のリソースを消費すると、画像取得の妨げとなる場合があります。これらの最適化の課題に対処することは、堅牢で高性能なGigE Visionシステムを維持する上で非常に重要です。
GigE Visionカメラシステムのユースケース
さまざまなトポロジーとその重要なコンポーネントをアプリケーションの具体的なニーズにどのように合わせるかを理解することは、GigE Visionカメラシステムを最適化する上で不可欠です。カメラ1台または複数台のどちらの構成であるかにかかわらず、システムをカスタマイズすることで、基本的なモニタリングから高速・高解像度イメージングに至るまでの幅広いアプリケーションに対応することができます。適切な構成を選択するための鍵は、システムの設計や最適化戦略に直接影響する、帯域幅や画像キャプチャ周波数の具体的な要件を特定することです。
低帯域幅のユースケース
低帯域幅のシナリオは、データ転送速度がそれほど求められない(通常500MB/秒未満)アプリケーションに適しています。コスト効率やシンプルさを優先したセットアップであり、大量のデータを素早く転送する必要がないタスクに最適です。
- 単一カメラ: 基本的な品質管理やシンプルな監視などの低帯域幅のユースケースでは、通常、1GigEカメラ1台が使用されます。このセットアップは、30~60FPSという中程度のフレームレートで2~5MPの解像度をサポートします。ネットワーク構成は簡単で、ソフトウェア最適化も最小限で済みます。
- 複数カメラ: 複数カメラのセットアップによる低帯域幅のユースケースとしては、シンプルなマルチアングル外観検査や、複数のコンベアラインのモニタリングなどが考えられます。複数台の1GigEカメラを使用し、依然としてシンプルさに重点を置いており、複雑な統合を行わなくてもデバイス間の円滑なデータの流れを実現できます。
高帯域幅のユースケース
高帯域幅のシナリオは、500MB/秒を超え、場合によっては数GB/秒に上る転送速度で大きなデータスループットが求められるアプリケーションで必要となります。これらのセットアップは、高解像度イメージングや詳細な画像解析には不可欠です。
- 単一カメラ: 詳細検査システムや高度な医用画像などの高帯域幅のユースケースでは、通常、5GigEまたは10GigEカメラ1台が採用されます。このセットアップは、60~120FPSのフレームレートで、しばしば5MPを超える高解像度イメージングをサポートします。ネットワークインフラストラクチャは堅牢でなければならず、データ負荷の増加に対処するために高度なソフトウェア最適化が求められます。
- 複数カメラ: 高帯域幅のシナリオで複数台のカメラが使用される場合、例えば高度な製造工程や多角的な科学研究などでは、複数台の5GigEまたは10GigEカメラが使用されます。これらのセットアップでは、複数の高解像度ストリームを管理するために、高度に最適化されたネットワークが必要となり、ネットワークの堅牢性へのきめ細かい配慮や複雑なソフトウェア統合が求められます。
高周波数のユースケース
高周波数のユースケースは、非常に高いラインレート(1Dラインスキャンカメラ)、高いプロファイルレート(3Dカメラ)、またはしばしば1000FPSを超えるフレームレート(2Dエリアスキャンカメラ)が必要なユースケースとして定義されます。これらのセットアップは、リアルタイムでの処理やデータ転送が最優先される高速事象の撮影で非常に重要となります。
- 単一カメラ: 動作解析や高速生産ラインモニタリングなどの高周波数アプリケーションでは、1GigEまたは5GigEカメラ1台が使用されます。これらのセットアップでは、リアルタイムデータ処理の管理が可能な高速のネットワークが求められ、高いフレームレートでデータの整合性を確保するためにソフトウェア最適化が非常に重要となります。
- 複数カメラ: 複数台の5GigEまたは10GigEカメラを含む高周波数のシナリオは、同期された高速組立ライン検査や複雑な動作解析などのアプリケーションで必要となります。これらのセットアップでは、リアルタイムデータ処理やすべてのカメラの同期を管理するために、非常に複雑なネットワーク構成と高度なソフトウェア最適化が求められます。
ユースケースのまとめ
以下の表は、単一および複数カメラシステムの両ユースケースの主な特徴と考慮事項をまとめたものです。さまざまなセットアップが直接比較されているため、アプリケーションに最適な構成を選択するのに役立ちます。
トポロジー |
単一カメラ(直接) |
複数カメラ(直接またはスイッチ) |
||||
ユースケース |
低帯域幅 |
高帯域幅 |
高周波数 |
低帯域幅 |
高帯域幅 |
高周波数 |
典型的なカメラタイプ |
1 GigE カメラ |
5GigEまたは 10GigE カメラ |
1GigE または 5GigE カメラ |
複数台の1 GigE カメラ |
複数台の5 GigEまたは 10 GigE カメラ |
複数台の 5GigE または 10 GigEカメラ |
主な考慮事項 |
コスト効率、シンプルさ |
高速・高解像度のキャプチャおよび転送 |
高速のキャプチャおよび転送、リアルタイム処理 |
コスト効率、シンプルさ |
詳細イメージング、ネットワークの堅牢性 |
高速のキャプチャおよび転送、リアルタイム処理、同期 |
アプリケーションの例 |
基本的な品質管理、シンプルな画像キャプチャ |
詳細検査システム、高度な医用画像、スポーツアナリティクス |
動作解析、高速生産ラインモニタリング、3Dプロファイリング、ラインスキャニング |
シンプルなマルチアングル外観検査、複数コンベアラインの製品検査 |
高度な製造工程、多角的な科学研究 |
複雑な動作解析、高速組立ライン検査、研究における体積測定 |
データ量 |
少ない |
多い |
多い |
中程度 |
多い |
非常に多い |
画像解像度 |
低~中 |
中~高 |
低~中 |
低~中 |
中~高 |
低~高 |
フレームレート要件 |
中~高 |
中~高 |
非常に高い |
中程度 |
中~高 |
非常に高い |
ネットワーク構成 |
シンプル |
堅牢な高性能ネットワークには高品質のネットワークインターフェイスカードが必要 |
大容量のデータをリアルタイムで処理可能な高速ネットワーク |
シンプル |
堅牢な高性能ネットワーク |
大容量のデータをリアルタイムで処理可能な高速ネットワーク |
統合の複雑さ |
シンプル |
シンプル |
複雑 |
シンプル |
複雑 |
複雑 |
ソフトウェア最適化 |
重要度は低い |
重要 |
極めて重要 |
重要 |
極めて重要 |
極めて重要 |
まとめと結論
このホワイトペーパーでは、GigE Visionカメラシステムを最適化し、産業および科学の幅広いアプリケーションに対応するために不可欠な要素について解説しました。システムの堅牢性の重要性の理解から、適切なトポロジーの選択、具体的な帯域幅・周波数要件に対処するためのシステムの構成に至るまで、最適な性能を達成するためにはそれぞれのステップが非常に重要となります。
主なポイント:
- システムの堅牢性: GigE Visionシステムの堅牢性の確保は最重要事項です。TeledyneのT2IRフレームワークのようなツールを使用してシステムの信頼性をモニタリングおよび維持することで、パケット損失を防止し、データの整合性を確保することができます。
- トポロジーの選択: 1台のカメラをアダプタに直接接続するか、複数台のカメラをネットワークスイッチを介して接続するかといったトポロジーの選択は、システムの性能に大きな影響を与えます。各トポロジーの長所と限界を理解することは、特定のニーズを満たすシステムを構成する上で役立ちます。
- カスタマイズされた構成: システム構成をアプリケーションの具体的な帯域幅・周波数要件に合わせられるため、GigE Visionカメラシステムは効率的かつ効果的なシステムです。シンプルなタスクのための低帯域幅のセットアップにしても、高速事象を撮影するための高周波数の構成にしても、適切なセットアップが成功の鍵となります。
おわりに:
本稿で論じた戦略を検討する際は、システムの最適化が継続的なプロセスであることを忘れないでください。GigE Visionカメラシステムの構成に関して行った選択は、システムの性能と信頼性に直接影響を及ぼします。システムを1つ上のレベルに引き上げたいと考えている方のために、近日発行予定の詳細な最適化ガイドでは、イメージングソリューションの可能性を最大限に引き出すために必要な知見を提供します。
Teledyneのビジョン分野の専門技術について
TeledyneはGigE Vision技術の最前線に立ち、産業用イメージングの厳しい要求を満たす幅広い専門技術と革新的なソリューションを提供しています。Teledyneの産業用イメージングカメラは、特に故障が許されない医療機器をはじめとする重要なアプリケーションで信頼を確立しており、高精度で信頼性の高い性能を保証します。研究、開発、および顧客の成功のための取り組みを通じて、顧客の具体的なニーズに合わせてカスタマイズされた技術的に高度なイノベーションが生み出されています。